今回の記事では、冷却ファンの設定が印刷にどのように影響を与えるのか、
ABSフィラメントを使用して検証します。
冷却ファンとは
3Dプリンタには冷却ファンが主に2種類取り付けられています。
1つ目がエクストルーダを冷却するためのファンです。
フィラメントをノズルまで押し出すにはフィラメントが固体の状態である必要があります。
この冷却ファンがない場合、ノズルヒーター部の熱が伝わってしまいフィラメントの全体に「フィラメントが柔らかくなって」しまいます。
こうなると送りのギアが材料を送り出せなくなり、失敗につながります。
熱を伝えたくない部分をファンで冷却することで安定して材料を送り出すことができます。
2つ目の冷却ファンが、今回検証する吐出した材料を冷却するためのファンです。
一般的に、ABSを使用して造形するときは冷却ファンを使用しない方が良いとされています。
それはABSの熱収縮性が高く、温度管理が適切でなければモデルに反りが発生するなど、造形失敗につながります。
そのため、吐出した材料を急速に冷却してしまうファンをOFFにすることが求められます。
今回は実際に冷却ファンの使用した場合と使用しない場合で、モデルにどんな違いが現れるのか検証します。
ファンOFFの場合
今回検証で使用するのは下記のようなシンプルな立方体のモデルです。
『造形条件』
・モデルサイズ : 20×20×20mm
・ノズル径 : 0.4mm
・ノズル温度 : 260℃
・テーブル温度 : 90℃
・積層ピッチ : 0.15mm
・インフィル : 20%
・ファン速度 : 0%
結果
モデルに反りや積層間の剥離など反りによる影響は見られませんが、
モデルの角やエッジ部分などの表面に荒れがみられます。これはモデルのサイズや形状などにもよって異なりますが、とくに小さなパーツや細かなディテールの部分で発生しやすいです。
ファンによって冷却されないため、溶けた材料が十分に固まる前に次のレイヤーが重なってしまい、形が崩れてしまうことが原因だと考えられます。
このように冷却ファンを使用しない場合、反りを防ぐ効果は高まりますが、形状が崩れたり、表面に荒れが発生する場合があります。
ファンONの場合
次に、冷却ファンを速度100%に設定して造形しました。
今回のモデルの場合、冷却ファンを使用しても反りは発生しませんでした。
これは造形したモデルのサイズ小さいため、反りが発生しにくかったと思います。
冷却を使用したモデルは、使用しない場合に比べて壁の品質や形状の再現性が大幅に向上しています。吐出された樹脂がしっかりと冷却されるため、次の積層が始まる前に硬化し、形状が崩れることなく積層ができるからです。冷却ファンはまさにこのために取り付けられた機能だといえます。
見落としがちなポイント
ここまでの結果を見ると、ファンを使用した方が良いと思われますが、
実は、気付きずらいポイントがあります。
それは、層間の接着強度です。冷却ファンを使用する場合、吐出された樹脂が素早く冷却されるため、層同士のフィラメントが完全に融合できず、強固な接着が得られません。
これはFDM方式の3Dプリンタの弱点とも言えます。
そのため、FDM式プリンタのモデルのZ軸方向の機械的特性は、常にXY軸方向よりも弱くなります。
これは層間接着の問題が原因です。
では、実際にそれぞれ積層強度がどれくらい違うのか確認してみたいと思います。
私は層間接着を確認するために、カッターナイフを層の間に差し込んでテストしています。
層間接着の強度を確認
ファンを使用して造形したモデルはカッターの刃が少し入れると、積層に沿うように簡単に刃が入りました。また、刃の先が入ると同時に割れるように亀裂が広がりました。
これは層間接着が弱く、積層が剥がれやすい状態であることを示しています。
次に、ファンをオフにしたサンプルでも同様にカッターナイフの刃を差し込んでみました。
ファンを使用せずに造形したモデルは、使用したモデルに比べてかなり力をいれてようやく切り込みが入る程度でした。また、それにより亀裂が広がるようなこともありませんでした。
この結果からファンをOFFにして造形することで、層間接着が強力になっているということがわかりました。
まとめ
結論として、ファンをOFFにしたモデルは、見た目はあまり良くないですが、機械的特性の観点から見ると、冷却ファンを使用せずに印刷したものと比べてではるかに強いと言えます。
そのため、ABSの造形でファンをOFFにすることは反りの抑制に効果的だとわかります。
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